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“病理医”不足 医療の発展に伴う対策を

2010-06-10 10:19:26

患者に接して診察治療をする「臨床医」に対して、「病理医」というのは、人体の組織や細胞を顕微鏡で見て、病変の有無や広がり、良性・悪性の識別等の判断を下す仕事に従事しています。以前は、病院で不幸にして亡くなられた患者さんの死因、病態解析、治療効果などを検証し、今後の医療に生かすことを目的とした病理解剖が主でしたが、近年、組織や細胞診生検材料の病変診断や、摘出された臓器の詳細な病理診断、また手術中の短時間の内に病理診断を下して、手術方針を決めるのに役立つ「迅速病理診断」に携わることが多く、治療方針の決定に関わる重要な職務となっています。

その「病理医」に関して、産経新聞では、「病理医」の認知度の低さと「診療医の不足」にもまさる深刻な病理医不足を啓発しています。
 
「がん治療などで高度な医療が普及するに伴って深刻な医師不足に見舞われながら、その危機的状況があまり知られていない診療科がある。腫瘍(しゅよう)細胞が良性か悪性か見極めるなど治療方針を立てるうえで要になる病理診断科の病理医である。」
 
「もともと病理医の絶対数が足らないうえ、画像診断技術の発達などで早期の小さな病巣がみつかるようになり、検体の数が急激に増えて病理診断の手が回りにくい状況になった。3人に1人はがんで死亡するという時代に、病理医をめぐる環境は今後ますます厳しくなるだろう。」
 
では、病理医の実状はどうなのでしょうか。病理専門医は全国で2,000名に満たない状態であり、日本の全医師約29万人に対して1%以下です。その平均年齢は50歳を超えおり、後継病理医が少ない状況(毎年輩出される新病理専門医数は80人弱)が続いています。結果、300床以上の総合病院でさえも、常勤病理医が居るのは半分程度といわれています。同産経新聞記事でも、「病理専門医の数は全国で約1500人。人口比では米国の4分の1以下にすぎない。大学病院などでは、常勤の病理医がいるが、多くても2人という状態。」と病理医の絶対数不足を訴えています。
 
さて、専門病理医が増えにくかった原因としては、下記が挙げられています。
①病理診断が病理学的検査として衛生検査所(病気の診断や健康診断の為に採取された血液等の検体を医療機関から集めて検査する施設)に外注されてきたこと。
②病理科が患者を直接診療しないことを理由に標榜診療科(病院や診療所が外部に広告できる診療科)として認められなかったこと。
③病理診断料診療所等での病理診断について診療報酬の評価が無い。
 
病理医数が少ない中で、病理医が必要とされる従来の業務が増え、また主治医の立ち会いのもとで病理医が患者に写真や図を用いて病理診断の説明を実施する業務も加わり、病理医は過酷な労働環境におかれています。産経新聞によると、「検体の数が毎年20~50%も増加するのに加えて、手術中に採取した細胞を直ちに診断するなど臨床現場に参加することが多くなって拘束時間が長く、土日も休めない。」状況のようです。
 
「日本病理学会理事長の青笹克之・大阪大学教授は、『職場環境や待遇の改善に加えて大学教育、臨床研修のさいに魅力的な仕事であることをアピールして病理医を増やすことなどを考えています』と強調する。医学生の教育を含め対応策は小手先では解決できないほど切羽詰まっているのだ。」
 「すでに顕在化している外科、産婦人科、小児科を中心にした医師不足については、平成20年度から医学部の定員増が行われているが、単なる数合わせだけでは解決しない。診療科や地域による偏在は否めず、これを是正するため、厚生労働省は、実態調査に乗り出している。」<同産経新聞より>
 
今から実態調査に入るとのことですが、下記産経新聞の結論に同意する限りです。
 
「医師不足の問題は、今後、医学の発展とともにさまざまな領域から表面化してくるだろう。そのときに患者優先の医療を貫くためにも根底にある課題を解明し、対症療法ではない施策のよりどころとすることが大切だ。(論説委員・坂口至徳)」
 
しかしながら、病理医になる為には、下記資格を満たしていなければならず、ハードルが高く、構造的にも短期間での人員増加は難しいと思われます。
 
■医師・歯科医師免許取得後
・5年以上の病理診断歴
・50体以上の病理解剖(死体解剖資格取得[1])
・3000件以上の病理診断経験
・50件以上の迅速病理診断(術中病理診断)
・死体解剖資格(剖検医)
 
不足している「病理医」とは別に「病理検査技師」という存在があり、「病理医」と共に医療に従事しております。臨床病理学 野島 孝之教授は、病理検査技師の仕事についてこう語っています。
 
「手術中に摘出された組織を調べ、10分ほどの間に手術方針を決める診断を下す『術中迅速診断』もほぼ毎日行われています。診断を下す病理医に見やすい標本を提供するのが診断を下す病理医に見やすい標本を提供するのが『病理検査技師』です。崩れやすい組織や細胞の形を保つ、標本作りは1000分の数ミリの単位の作業。この緻密な作業が医師の正しい診断を支えています。病気の診断という部分に深く関わっていながら、普段私たちがあまり見かけることはない、そんな病院の縁の下の力持ちが病理医と病理検査技師なのです。」
<病理検査技師の仕事2006年9月26日 テレビ金沢放送 http://fcslib.tvkanazawa.co.jp/karada/broadcast/?bc_id=32
 
昨今、医療機器や病理診断システムが飛躍的に発展している中、医師以外の「病理士」として「病理検査技師」へ一定の業務を委譲してはどうかというのが私見です。そして、「病理士」の育成と増加を推進するのが、現実的ではないでしょうか。
しかし、日本病理学会が実施した病理検査士(PA)導入-「病理検査士に関するアンケートの総括」によると、病理医の半数近くが業務の委譲に関しては不要との結果だったようです。
<病理検査士(PA)に関するアンケートの総括 平成19年2月27日http://jsp.umin.ac.jp/committee/surveyPA2.html
 ただ、病理検査士導入の利点としては、下記が挙げられています。
「1)病理医不足に対する補填:周知のごとく、病理専門医数は圧倒的に不足しており、志望者も少ない現状では、病理医不足の早期解消は望めそうもない。一方では医療の急速な進歩に伴い、診断病理医の役割は増加している。そのため診断病理医、特に少人数の病院病理医の業務と責任は過重の一途をたどっている。技師に業務を分担してもらうことで、業務の軽減をはかり、多忙と疲労から来る誤診あるいは医療事故を防ぐこともできる。
 
2)病理医の職域拡大:PAに業務を分担してもらうことで、病理医に時間的余裕ができ、病理医が患者に直接説明するいわゆる「病理外来」の開設が可能となり、これにより標榜化への橋頭堡を築くことができる。あるいは臨床とのカンファランスなどにも積極的に参加できる、研究や教育にも力を注ぐことができるなど、従来の診断業務のみではなく、新たな活躍の場を広げることが可能となる。

3) 技師の職域拡大:技師の職域が拡大され、より高度な専門性を持つことにより、病院などの医療現場での需要が高まる。また、専門性ゆえに職場が固定され、ローテートや異動などに影響されず、職務に専念できる可能性が増す

4) 病理業務の精度管理:病理医不足のため、一部の施設では病理部門の技師が病理医の業務をすでに分担しているのが現状であろう。公的な資格審査を受けたPAのみが業務を行うことにすれば、的確な精度管理ができる。」

病理診断の正確度は、病理医の研修度や経験の深さのみならず、臨床医との良好なコミュニケーションが必須な要素だといわれていますが、現状では、病理医にそれに割ける十分な時間は取れません。客観的な病理判断の手段となる医療機器や病理診断システムの発展を推進し、「病理士」にできることは病理士に任せ、「病理医」は病理医でなければできないことに専念できる仕組みが必要だと思います。医師である「病理医」と医療スタッフの「病理士」の連携の下で、患者第一の医療の実践を望みます。

 

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